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国境を越えたコラボレーション : アジアのライフサイエンス企業にとって重要な、落とし穴とその回避方法

2023年05月09日

M&A市場の減速にもかかわらず、バイオテクノロジー企業と製薬会社間のコラボレーション、特に価値創生に向けたイノベーションとコラボレーションに重点を置いたコラボレーションは引き続き堅調に推移しています。最近の記事によれば、アジア各国間や国内ライセンス契約の規模は拡大しており、中国製薬業界ではライセンス契約が事業展開モデルとして注目されています。国境を越えた取引には、ライセンス供与とコラボレーション、合弁事業、  融資と販売契約など、様々な業態が可能です。しかし、国境を越えて契約を結ぶ際には、考慮すべき重要な事項があります。

知的財産権

ライフサイエンス企業にとって知的財産権は多くの場合、企業の最も価値ある資産であり、その保護無くしては、これらの資産は脆弱で、他の第三者による搾取の対象となる可能性があります。ライセンサーが知的財産を付与できる権限を持つことを確認するために、対象の知的財産ポートフォリオに適切なデューデリジェンスを実施することが重要です。特に創設間もないバイオテクノロジー企業については、可能な限り、知的財産権所有者と(発明)従業員の権利の帰属に関する堅固な表明と保証を確保するよう努める必要があります。

こうした取引は国際的性格を持つことから、知的財産権をコラボレーションに関連する全ての関連管轄国で保護する必要があります。関連国での優先的訴権を取得し、ライセンサーには関連国で真摯に紛争解決に努める義務も含めるよう配慮します。

また、ライセンス付与の地域範囲が適切となるよう確認し、研究、開発、製造、商業化の各ライセンスを当該地域で専属的とすべきかを慎重に検討することも重要です。

法規制の遵守

ライフサイエンス業界における国境を越えたライセンスとコラボレーションには、非常に広い観点から多数の複雑な規制が関わっています。例えば、製品の承認、臨床試験、知的財産権、個人情報保護法、輸出・貿易規則が含まれており、事業活動する管轄国や企業が経営を行う管轄国によって異なります。重要な問題は早期に特定することが重要で、前例の無い問題には分析に時間がかかり、当局から承認を得るために予定したタイムラインが影響を受ける可能性があります。

準拠法/紛争解決地の選択

問題が紛争に発展した場合に備え、契約には仲裁や訴訟等の詳細な紛争解決メカニズムが含まれていることを確認し、かつ準拠法と管轄権を指定しておくことが重要です。国境を越えた戦略的ライセンスとコラボレーションの取引では、準拠法としてニューヨーク法、英国法(イングランド及びウェールズ)、香港法、シンガポール法の何れかが、コモンローではよく選ばれる選択肢です。

訴訟と仲裁には、それぞれ紛争解決メカニズムとしての長所と短所があります。 しかし、 国際仲裁は現在も、国境をまたぐ商事紛争解決に最も好まれる方法です。

支払い/税金

海外とのライセンスやコラボレーションに関連する支払いの種類は、国内契約と同じです。 これらには、ライセンス料の前払い又は年払い、研究開発費の立替、特許審査及び維持関連費用、マイルストーンの支払い、ロイヤルティ、利益分配、エクイティ投資等があります。  リスクを特定し理解し、税務専門家に相談した上で、潜在的不確実性に対処する契約条項を入れておくことが重要です。

その他の実務上の留意事項

国境を越える取引では、特にコミュニケーションのスタイルに文化的違いがあることを留意する必要があります。敬意を払い、可能な現実的範囲で、相手方の習慣やアプローチを採用する配慮が望まれます。

バイデン政権は環境アジェンダの主要要素として、環境正義と公平性の促進に力を入れています。その重要な留意事項を、Asia Life Sciences Webinar Series 2023の一環として開催される「アジア拠点のライフサイエンス企業の海外戦略的ライセンスとコラボレーションについての考察」(Considerations for Cross-Border Strategic Licenses and Collaborations for Asia-Based Life Sciences Companies, で解説しておりますので、是非ご覧ください。