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日本のCVC (コーポレート・ベンチャー・キャピタル) 投資における労働と雇用の留意点

2023年06月09日

日本のCVC投資家にとって、米国のベンチャー企業との関わりには、考慮を要する労働・雇用に関する多くの問題がつきものです。差別、労働時間、職場の安全衛生、休暇、任意雇用など様々な規制があり、連邦政府と州・地方の規制の違いを理解した上での検討が必要です。CVC投資家はスタートアップ企業の将来の成功に影響を与える可能性のある従業員の確保、守秘義務、競業避止義務、勧誘禁止義務に特に留意する必要があります。以下は、CVC投資家向けの取引に関連する主要な労働・雇用問題の要約です。

デューデリジェンスのポイント

  • スタートアップ企業の創業者や主要従業員が離職するリスクを特定するために、徹底したデューデリジェンスを実施すること。スタートアップ企業では、創業者や幹部がスタートアップの技術的・経営的成功に不可欠な役割を担っています。投資後にそれらの重要人物を失うと、悲惨なことになりかねません。また、従業員が会社を辞めて競合他社に就職したり、退社時に機密情報や技術権を持ち出したりすることも、投資に悪影響を及ぼす可能性があります。
    • こうしたリスクを早期に把握し、テクノロジーの権利確保や従業員のエンゲージメント向上など、こうした事態の可能性を低減するための対策を講じるようにしましょう。
    • その他の従業員維持策としては、投資契約における適切なクロージング条件の設定、報奨金やステイ・ボーナスの支給、競業避止義務や勧誘禁止義務などがあります。
  • 重要な従業員の雇用条件について調査する。重要な役員や従業員が株式報酬や投資後の所有権に変化をもたらすような項目を有していないか、また、退職や潜在的な雇用条件の変更によって発生する何らかの支払いがないか、その他雇用に関連して発生する支払いがないかどうかを確認しましょう。さらに、営業秘密、特許権もしくは差別待遇に関わる係争中のまたは潜在的な法的紛争に注意することも大切です。
  • 雇用契約条項を理解する。秘密情報、発明譲渡、競業避止義務や勧誘禁止契約を扱う雇用契約条項は、州によって日本での一般的な理解とは異なる見解が示されることがあります。
  • スタートアップ企業の報酬制度を知る。スタートアップでは株式報酬制度が一般的で、一般的に制限付き株式、ストックオプション、制限付き株式ユニット、パフォーマンス・シェア・ユニットが含まれます。それぞれに特徴や条件があります。

競業避止義務規定

従業員が退職後に競合する事業に従事したり、競合他社と契約したりすることを禁止する契約上の競業避止条項の使用を検討する場合、米国では必ずしも日本と同じ効力を持つとは限らず、その適用可能性は州によって異なりうるものであることに留意する必要があります。さらに、米国連邦取引委員会(FTC)による規則により、これらの条項の使用が禁止される可能性もあります。

スタートアップ投資における重要なポイント

  • デューデリジェンス時に事業遂行に不可欠な役員・従業員を正しく把握し、その対応方針を確認する。
  • 雇用に関する法的紛争の可能性を把握するため、役員や従業員との契約を含むデューデリジェンスを入念に行う。
  • 事業遂行に不可欠な役員・従業員の離職を極力防ぐための条項を投資契約に盛り込む。
  • 役員・従業員個人との契約において、退職後の競業避止義務を課すことは難しくなっていることに留意する。
  • 法務・人事・事業部門を巻き込み、デューデリジェンスやクロージング後の方針を分析する。

詳しくはこちら

労働・雇用に関する考察の詳細については、当社のプレゼンテーション「米国スタートアップ企業に投資する際の労働・雇用に関する論点(日本語で実施)」をご覧ください。本ウェビナーは、米国のスタートアップ企業への投資を通じて新たなビジネスモデルを開発する日本企業やファンドを対象にした2023年全4回シリーズの一環です。第1回では、CVC投資家のための投資ストラクチャーとファンド組成の要因について解説し、第2回では、ガバナンス、出口戦略、国家安全保障に関連する重要な用語や取引条件、潜在的な課題を克服するためのベストプラクティスについて解説しました。また第3回はCVC投資家向けに知的財産権(IP)に関する主要な問題や取引に関するデューデリジェンスについてまとめました。