Insight

米国スタートアップ企業へのCVC投資 (後編)

2023年02月21日

日本のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が米国スタートアップ企業への投資で成功した事例においては、長期的な視野で対象会社とパートナーシップを築いている傾向がみられます。キャピタルゲインは重要な要素ですが、それだけでなく戦略的な業務提携という視点も重要です。 本シリーズの前編では、こうしたコラボレーションのための投資ストラクチャー及びファンド組成について検討しました。今回のウェビナーでは、ガバナンスや出口戦略に関する取引の重要条件、対米外国投資委員会(CFIUS)について解説し、これらに関する課題を克服するためのベストプラクティスをご提案しています。

ガバナンス

  • 取締役選任権又はオブザーバー権利の選択: オブザーバーとして取締役会に出席する権利を保有していても議決権を行使することはできません。 しかしながら、取締役として個人責任を負うリスクを考慮すると、投資家にとって取締役選任権よりもオブザーバー権利の方が好ましいということも考えられます。取締役選任権及びオブザーバー権利のいずれも保有しない場合であっても、発行会社の取締役会に提出された資料の開示を求めることがしばしば行われています。
  • 議決権: 優先株主が普通株主と共に議決権を行使する場合、その議決権の数は、優先株式が普通株式に転換された場合(完全希薄化後)の株式数を基準として計算されます。更に、法律又は定款に基づき、種類株主としてのクラス別投票が要求される場合もあります。
  • 重要事項に関する拒否権: 発行会社や創業者の立場からすると、投資家に拒否権を認めることによって会社経営が制約されるため、どの項目について拒否権を認めるかは交渉上の重要な争点となります。
  • 情報受領権: 投資家が発行会社から財務及び事業に関する情報の提供を受ける権利をいいます。これには発行会社を訪問して調査する権利、発行会社の経営陣と対話する権利も含まれます。

出口戦略

  • 残余財産優先分配請求権: 発行会社が解散・清算した時点の残余財産については、まず優先株主に対して投資金額相当分が優先的に分配され、その後の残額が普通株主(又は普通株主も含めた全株主)にプロラタで分配 されます。
  • 償還請求権: 発行会社による償還は法律で許容される範囲内に制限されるため、投資家は償還請求に代わる別の出口戦略を検討しておくことも重要です。

対米外国投資委員会 (CFIUS)

2018年に成立した Foreign Investment Risk Review Modernization Act (FIRRMA) によって、米国外の投資家による米国会社の支配権の取得に加えて、「重要な技術」「重要なインフラ」「センシティブな個人データ」に対する投資もCFIUSによる審査の対象となりました。

FIRRMA制定後、重要な技術に対する投資及び外国政府関係者による投資には、届出を行うことが法律上の義務となりました。法律上の届出義務がない場合であっても、クロージング後にCFIUSによって取引を無効にされるリスクを回避するため、実務上、任意の届出を行うケースが多くあります。

法律上の義務に基づく届出だけでなく、任意の届出又は申告(Declaration)を行うべきかについても検討する必要があります。 CFIUS届出には、少なくとも4~5ヶ月程度(審査期間90日+正式な届出前の準備期間1~2ヶ月程度)かかるのが通常で、投資スケジュールに大な影響を与えるため、取引の初期段階から検討を開始することが重要です。

企業文化の違い

日本企業が米国投資を検討する際に、企業文化の観点からいくつかの課題があります。米国と比較して、日本企業は意思決定を詳細に書面化する傾向にあるため、意思決定のスピードや秘密性を欠くことがあります。また、友好関係を求め、緊張感のある契約交渉を避ける傾向も見られます。更に、世界でもトップクラスの技術を持ちながら、権利行使については消極的な部分もあります。リスクを嫌い、訴訟を回避しようとする傾向もあります。

実務上の重要ポイント

  • 社内調整と社外マーケティングを広範囲に実施
  • 周到・綿密な契約書の作成、契約交渉の努力
  • シリコンバレー式のエクイティ・インセンティブ及び成功報酬
  • 訴訟は米国で事業を行うにあたって不可避のコストという認識及び心構え
  • 米国の市場及びCVCプラクティスに精通している経験豊富なアドバイザーを利用すること

更に詳しく

上記に関する更に詳しい内容は、モルガン・ルイス主催のウェビナー「米国スタートアップ企業へのCVC投資(後編): 取引成功の秘訣: 重要条件及び留意点(日本語講演)」をご覧ください。本講演は2023 年ウェビナーシリーズの1つとして、日本企業やファンドを対象に、米国スタートアップ企業に対する投資に関する新たなビジネスモデルの展開について概説しております。

お問い合わせは、横山歩までお寄せください。